OFFの顔〜心の中のもう一つのテーマ〜

 
ケアマネジャー・看護師 川上由里子  

 12歳の春に初めてその音を聴いた。
その時の感動を「あったかくて優しい夕焼けのような音、透き通った風のような音。」と当時私は日記帳に記している。
「あの銀色の笛の音をだしてみたい!」強く願ったセーラー服におかっぱ頭の日から以来30年近く、このフルートという楽器の音に私は夢中になってきた。
初めての印象は「楽器が重い」「息が苦しい」。毎日毎日汗をかいて格闘した。コンクールに出場する暑い夏を毎年過ごした。くやし涙と感動の涙をたくさん流しまたよく笑い、この笛と一緒に時をすごしてきた。
3年も経つ頃には望む音色を響かせるためには自分の内面から変えなければならないことに気づき始めて、テクニックではない目に見えない何かを学ぶようになってきていた。
 「看護婦さんになりたい」。ケアの道を志し、夢中で走ってきた道だったけれど、振り返ってみるとこの「銀色の横笛の音」とのおつきあいという、仕事とはまた違う心の中のテーマにずっと魅せられてきた。

知っていますか?

●フルートという楽器は中世の頃、坐骨神経痛患者の患部の上でフルートを演奏して治療
した、といわれています。はるか昔から癒しの楽器なのです。
●高い周波数の音(バイオリンやフルート)は意識をリラックスさせる効果があり、魂を調律する力があるとのこと。

 ブラスオルケスター(楽団)仲間、総勢50名での毎年恒例定期演奏会。仕事との両立は大変だったけれど、アンコールのシングシングではやり遂げた涙でのりのり!
伊豆に浮かぶ船上のホテルでハーブ奏者との夢の饗宴。サンサーンスの白鳥やムーンリバーなどの優雅なメロディー。日常のナースである私への反応との違いにお驚く強烈な体験。演奏は決し優雅ではなかった為ちょっとすっぱい思い出。
音楽療法士の友人と宮沢賢治の世界を表現。ピアノ、チェロとの合奏でドボルザークの新世界・星めぐりのうた・・・詩や唄も構成して文学とのコラボレーション。

  そんな中で私の最も好きな時間は湖畔のからまつ林に囲まれた小さなホールで一人この大切な笛と向き合ってすごす時間。1本対一人の時間。
バッハの無伴奏パルティータ、シューマンのトロイメライ・・・・
伴奏の無いフルートの旋律だけがホールいっぱいに響く時、静かな森の空気の中で、樹や木の葉や、そこにすむ何者か達がじっ〜と耳を澄ましているような気さえ感じるから不思議だ。10代、20代、30代・・・そして今の自分の心を映しだす音はいつも変化してきた。思い通りにいかないことの方が多い人生と同じく、この銀色の笛も簡単に言う事を聴いてはくれない。聴きたくない惨めな音も聴かなければならない時も多くある。それでも、私はこの先もどんな音をだしていくのか耳をよく澄ませて聴いていきたいと思っている。樹や水のように、昔から自然が人に与え続けてきた素朴であたたかな安堵感のようなものを、このフルートの音色に感じ続けてきたから。
  
 さて、最近では少し大人になったのか?お酒の席で、クラシックではなくボサノバやゴスペル風アレンジのレパートリーが加わり、肩の力を抜いた楽しみ方ができるようにも・・・70歳の私の音に出会う日を楽しみにフルートとのおつきあいを続けていきたい。

 日々の忙しさで忘れているものをリセットする時間、演奏のレベルを問わなければどなたかちょっと人生の一休みをご一緒にアンサンブルしてみませんか?モーツァルトから春の海までOKですよ。あなたの音色を聴かせて下さい。

● インドの「ナーダ音感想法」
両方の耳を手で塞ぎ内側に聴こえる音に意識を集中すると・・・
最初は心臓の音からくる太鼓のような音が聴こえてくるが、やがてフルートの様な音が聴こえ始め、ついには金属的な一筋の美しい高周波の音が聴こえてくるという